餓鬼岳(冬季・積雪期) マムシ平から餓鬼岳の肩からの餓鬼岳
2年前の年末にも同じルートで餓鬼岳にチャレンジしましたが、この時は時間切れ敗退となりました。この時は偵察色が強くて、山頂まで届けば御の字というスタンスで臨んでいました。案の定というか、やはり積雪期の餓鬼岳は簡単に登らせてはもらえませんでしたね。ただ、実際にルートを見ることができ、どうすれば登頂できるかのプランが立てられたのは大きな収穫で、今回の登頂につながったと思います。
餓鬼岳に登るのにこのルートを考えた理由…。ある時、昭文社の「山と高原地図」を眺めていたら、餓鬼岳と大凪山の間の2235m点から南東に伸びる尾根に薄い破線があるのを発見。破線があるのは上部約1kmのみだが。この尾根を辿っていくとマムシ平に降り着きます。マムシ平には林道が伸びている。きっと昔は道があったに違いない…と2年前にチャレンジしたのでした。ちなみに最近の地図には破線は載っていません。 ◆3月7日(木) アルプスあづみの公園〜マムシ平〜1662m付近テン場 晴れ時々曇り前回のチャレンジから2年少々が経つわけですが、その間にも試みようとしたことはありました。しかし、雪が少なそうだったり、天気が悪そうだったり、モチベーションが上がらなかったり…と伸び伸びに。とくに、雪が少ないとヤブとの格闘場面が増えてしまいます。しっかり雪が積もるこの時期が適期と言えそうです。
週間予報は微妙な感じでしたが、土曜日が一番晴れそうだったので、その日を餓鬼岳登頂日に定め、木金を休暇に。このルートは山頂直下まで深い針葉樹に覆われているので、山頂アタックの日以外は多少荒れてても問題ありません。晴れるに越したことはないですが…。かなり気温が上がりそうで、少なくとも新雪のラッセルはなさそうですね。
前回はアルプスあづみの公園のメインの通りから林道を2キロほど進むことができました。今回は橋を渡るところにいきなりゲート。ゲートと言ってもただ置いてあるだけの物なので、どかして奥に入ることは可能。ただ、雪も多いし、平日で仕事の車が入ってくるかもしれないので自重。どうせ帰りは駅まで歩く予定だし…。実際に林道は轍が深く、ウチの軽自動車では厳しかったと思われます。
ツボ足になると股まで埋まります。ワカンを装着。林道をしばらく進んだあと、杉の植林地に突っ込みます。前回は沢形を詰めて苦労したので、樹林の急斜面を登っていきました。気温が高いので雪が締まっているかと思いきや、グズグズでスカスカな雪。締まっているところでヒザ下、緩いところでは股までハマります。踏んだ穴を何度も埋め戻して足場を固めるという地道な作業が続きます。気温が上がって雪が締まり、もしかしたら楽できるかも…は大間違いでした。ま、頑張って登るしかないですな。
標高約1500mのところに狭いながらも平坦地があります。ここは何とか幕営可能。問題はここから先。シャクナゲ密林地帯の始まりであります。シャクナゲのヤブだけならまだいい…、急な痩せ尾根だけならまだいい…、ラッセルが深いだけならまだいい…。これらが重なると大変。3つ重なると三重苦です。木をまたごうとしたその時にズボッと埋まったら溜息が出ます。
シャクナゲは無雑作に縦横無尽に枝が伸びていて、しかも硬いのが厄介。笹なら強引に抜けれてもシャクナゲは力ずくでは跳ね返されてしまいます。なので、丁寧にかき分けながら進まざるを得ません。密度が濃くなるとワカンを通してザックを通して…最後に必ず引っ掛かるのがストックの輪っか。これがかなりストレスになるのです。
まずは荷物を広げてビールを出してプシュ!テン場に着いた時のビールが一番旨い!で飲みながらテン場を踏み固めます。冬場は水作ったりとか色々作業があるので、大ヒマこくこともなく時間が過ぎていきます。7時過ぎには自然と眠りに就いたと思われます。暖かく快適な夜でした。 ◆3月8日(金) テン場〜夏道尾根 小雪のち雪予報通りといいましょうか、予報よりも早いといいましょうか、未明のうちからテントをたたく音。これが雨なのか粒雪なのかが重要な問題。雨は最悪。明るくなってテントの外を覗いてみると、雨になりかける寸前の小粒の雪。7時には出るつもりが億劫になり7時半出発。まあ、今日は最低2063mまで届けば大丈夫…のはず。それ以上進めればそれは貯金です。
この尾根は平坦地と急坂が交互に現れるのが特徴。これは大町などからも尾根の形状がよく見えます。平坦なところは割と雪が締まっていて、潜ってもヒザ下。しかし、急斜面になると何故か雪の密度がスカスカになり、ズボズボ埋まるようになります。急斜面=尾根状ということもあり、辿るルートが限定されてしまうのも辛いところです。何度も何度も埋戻して足場を作らなければ次に進めません。
あわよくば今日のうちに山頂…なんて考えていましたが、2063mから夏道の通る尾根も一筋縄ではいかず、やはり1時間に100m稼げるかどうかの進み具合。とくに夏道尾根に這い上がる雪壁状は厳しかったなあ…。尾根が片足かかったのに、何が起こったのか後ろの足がずり落ちてしまい、20mほど滑落。荷物が重いので成す術ナシでした。再び登り返す羽目に…。まあ、トレースあるから楽ですが、ずり落ちたことがショックでしたね〜。
夏道尾根から登ってきた尾根を見ても、尾根っぽくありません。帰りに迷うといけないので雪だるまを作って下降点の目印にしておきます。雪だるまというよりも、スコップで雪を切り出して積んだだけですが…。夏道尾根は地図で見るとしばらく平坦で、テン場には困らないかと予想していましたが、イマイチ快適そうなスペースはありません。だんだんと風と雪の勢いが増してきているので、できれば優良物件を探したいところです。 ◆3月9日(土) テン場C2〜餓鬼岳〜テン場C2〜テン場C3 小雪のち雪夜中はすごい風でした。針葉樹の林に囲まれているのでテント自体にはあまり当たらないけど、ヒューヒューと音がうるさいのなんの…。夕べからの雪は既にやんでいて、青空が広がっているけど外に出れない。森林限界上はえらいことだろうなあ〜。少しのやみ間にトイレを済ます。飛ばされてくる雪でテントが埋まりそうだ…。
餓鬼岳山頂までは標高差あと約400m。最悪今日もう一度ここに泊まることになっても明日の下山は可能でしょう。今日中に往復できればいい。気長に待つことに。まさかここまで来てて、餓鬼岳にまた登れない…なんてことはないでしょうねえ…。風は波状攻撃でやってくるのですが、穏やかな時間が徐々に長くなってきたような気が…。8時ごろに出発。
しばらく針葉樹の尾根を進むと、いよいよ餓鬼岳本体の登りとなります。生えてる木もダケカンバへと変わります。雲一つない快晴で、カンバが雪と青空によく映えます。前半は尾根を辿りますが、途中からカンバ林の浅い谷地形へ。夏道が九十九折になり花がたくさん咲いているところでしょうか。
斜面がフラットで斜度も申し分なく、ここはスキーで滑ると気持ちよさそうです。快適斜面は300mは続きそうです。ここまでスキーを持ってくるのが大変ですけど…。シャクナゲ地獄さえなければね〜。風で飛ばされた雪が溜まっててやや重の雪。ラッセルはヒザよりは下なのでそれなりです。ワカンがダンゴになるのが厄介でした。
餓鬼岳の肩の部分に登り上げます。標高は2550mくらいでしょうか。もう餓鬼岳は目の前です。ただ、ここから風が強くなります。雪煙上がりまくり!ワカンを履いたまま2度ほどハイマツ際の穴にスポッと落ちました。ワカンが抜けなくて大変でしたね〜。雪が堅くなってきてワカンの歯では不安になってきたので、久しぶりにアイゼン&ピッケルスタイルです。左手にピッケル、右手にストックの二刀流。
西からの風に煽られながら山頂を目指します。これだけ風が強いのに寒くないのが不思議。よほど気温が高いんでしょうね。それでも雪粒が飛んできて顔に当たると痛いので、帽子にフードの完全防備。2年越しのリベンジがもうすぐ叶います。
餓鬼岳山頂です!もちろん誰もいません。360度の大パノラマです。素晴らしい景色なんですが、まあこんなもんか…が正直な感想。一周の動画を撮って、静止画も一通り撮って、名残惜しいけど退散です。風が強いので長居はできません。
下りはドカドカと下ります。2時間20分かけて登ったところを40分ほどで下ります。なんだか登りの時よりも景色が霞んできたような…。そういえば黄砂が飛んでくるようなこと言ってたなあ…。あとでわかったことですが、畑などの土が巻き上がる煙霧という現象が松本で見られたようです。多分この霞は煙霧でしょう。
テントを撤収します。のんびりやってたんですが、1時間以上もかかってしまいました。ここから進んだぶんだけ、明日は早く降りることができるということです。明日の予報はイマイチなので、できるだけ降りておくにこしたことはありません。
試しにワカン無しで歩いてみます。平坦なうちは埋まると大変でしたが、斜度があると例え股まで埋まっても次の足が出てきます。きのう6時間半かけて登ったところを、2時間20分で下りましたからねぇ。平坦な部分がなくて、下り一辺倒だったらもっと短縮できたでしょうが…。このペースだと5時くらいにはマムシ平に降りれそうな感じでしたが、ヤブ漕ぎは明日にとっておくことにしましょう。朝の方が雪も硬いでしょうし。ということで、初日に泊まったテン場で再び泊まることに。
◆3月10日(日) テン場C3〜マムシ平〜安曇沓掛駅 雨夜は暑くて寝苦しいくらい。また強風が吹き荒れています。南風でしょうね。帰ってから調べてみたのですが、この日の朝7時の松本の気温が17℃。平年よりも20℃も高いってことです。恐ろしい…。空はなんとなく晴れ間もありますが、かなり怪しい感じでした。予報ではお昼前にかけてザッと一降りありそうとのこと。とっとと降りよう。
痩せ尾根の部分はこの陽気でとうとう雪が切れてしまってる部分がありましたね。木を掴みながらワカンで崖みたいなところを下るのはちょっと怖かったなあ…。ここだけはずすべきなんでしょうけど。雪がなくなったところには、桟橋の残骸のようなものがありました。やはりこの尾根には道があったということでしょう。前回は太い木に「→松川驛」とペンキで書かれたのも見ましたし(今回はわからず)。またカマボコ板のようなものが木に打ち付けてあるのも見ました。もちろん字は消えていましたが。
歩き始めてしばらくで、早くもポツポツと降り出します。マムシ平に降りる頃には本降りに。雪山で雨はかなわんなぁ〜。ヤブ漕ぎがあり、暖かくなるということで20年前のカッパとボロのオーバーパンツで来ました。雨は降るわ、積もってる雪はグサグサで全身ビショ濡れです。かといって、新しめのウェアだとヤブでボソボソになってしまうんでね〜。難しいところでした。でもまあ、こんなに濡れることは良くないので、やはりちゃんとしたウェアで来るべきだったでしょうね。
マムシ平で乳川の渡渉があります。帰りはジャブジャブのつもりでしたが、駅まで歩くのにまた履くので一応慎重に飛び石で。ただ、もう既に中まで濡れてるようなもんでしたが…。
橋に到着し、荷を投げ出します。グッタリです。ここに荷物を置き、空身で駅へと歩きます。寒くなったかと思えば、風向きが南から北に変わりました。ちょうど前線が通過中と思われます。あとで気象の観測値を見ると、この1時間で大町は9度から2度に下がっていました。凍えそうでした。駅の待合室に入った時はホッとしました。10分ほどで電車が到着。カッパのまま乗り込みます。さすがに座席には座れません。自宅に着き、風呂に入って生き返りました。生き返ったところで車で荷物を回収しに行って、積雪期の餓鬼岳が終了です。
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